良書。
ヴェルディ川崎と横浜マリノスのJリーグ開幕戦を見てプロを志したという仲里は高卒で神戸に入団するも試合出場はゼロ。ヴィッセルで頼み込んでアルバイト入社し、その先で出会った少年がきっかけでサッカースクールで起業を果たすことになる――。
「わずか2年でスクール会員を100人にした」とあるから成功を前提にするのは当然だが、その失敗談はサッカーだけでなく、さまざまなビジネスを志す人々にとってとても参考になるのではないか。
レッドオーシャン脱却を果たせたある理由。
仲里が最初目論んだ「元Jリーガーが教えるサッカースクール」という看板もそれだけではあえなく集客は0人。結局、自分が思っていた最強の資産は激戦極まる大阪でなんの役にも立たなかったという。それに仲里の地元は沖縄だ。頼れる人もいなかっただろう。
しかも恐ろしくもフットサルコートを3年分用意していたからランニングコストだけがどんどんかかる。だがしかし逆襲に転じるきっかけとなったのが「大人向けサッカースクール」というわけだ。
レッドオーシャンだった子供向けサービスから「大人向け」サービスにかじ取りをきったのが成功の一因となったわけだが、顧客のニーズや自身のストロングポイントを探す作業は結局、草の根。サービス業としての「スクール」形態は子供を基盤にするサッカースクールでも大いに見習うべきところがあるのではないか。
おおかたのコーチは高いレベルの選手を生み出したいから強度の高い練習をしたい。しかし、それでは顧客はついてこない。公立の学校ですらサービス業としての「教育」を意識し始めているのだから、社会は自然とそうなっていく。だったらコーチもサービス業を極めるしかない。
経営者だったらなおさらだ。ホームページにQ&Aを乗せたたことで顧客のスポーツサービスへの不安が消え、業績が伸びたという文言は起業家にとって福音も同然。ホームページ作成にランサーズやココナラを利用したというのもならっではといった感じだろう。SEO対策にも精をだしたという。
なにしろ施策、実行、結果が順をおって説明されているからわかりやすいし、結果的にエンタメ企業ドラマとしても成立させていることが本書の価値をさらに増す。このセカンドキャリア成功譚は、起業家だけでなく、副業の参考になるところも多いはずだ。
(新井一二三)