決勝で決めた、CL史上最高ゴール 。
サッカー界の史上最高ゴールは何かという問いには複数の答えが上がるけれど、少なくともCLでの史上最高ゴールといえばUEFAチャンピオンズリーグ01-02シーズン決勝、レアル・マドリー×レヴァークーゼン戦でジダンが魅せたスーパーボレー。ロベルト・カルロスが中盤でのパス交換で駆け上がった左サイドのクロスを、ジダンが利き足とは逆の左足で決めったこのゴールは、CLが開催されるたびにアイコンとして繰り返し流される、「定番のゴラッソ」である。
ジダンはこの瞬間を「とにかくボールをうまく納めていいフォームで撃とうと思った」と語っており、おそらく史上最高のテクニシャンである彼をしても、これは気持ちの揺れる瞬間であったらしい。マークがいないからと思い、ロベカルの動きに合わせてするする上がっていたら、たまたまおかしなボールが来た、というのが本当のところだろう。ロベカルのクロスは、それほど異常な高さのロブだった。マーク完璧につかれたロベカルが「やりきる」ためになんとか上げただけのクロスに、ジダンはやってのけたのである。
「ロベカルというポジション」がもたらした栄光。
だが、ロベルト・カルロスは当時マドリーでボレーで撃たせるようなクロスを結構放っていた様子。サイドバックがボレーで合わせるクロスなんて少なくとも普通ではないが、マドリーにはかつて毎試合のようにボレーで決めるオーバーヘッドの名手、ウーゴ・サンチェスというプレイヤーが存在した。それを受け入れるマドリーのDNAもこのゴールを生み出したのかもしれない。
そもそもロベルト・カルロスは唯一無二の左サイドバックだった。中を切っても平気で内まで抉ってくるし、外を警戒すれば弾丸のようなシュートはもちろん、パス交換して平気でPAまで入り込んでくる――。攻撃参加が持ち味というサイドバックは当時すでにいたが、ロベカルの場合はその攻撃力自体がまずおかしい。少なくとも「わくわくさせるSB」という意味では彼は今でも頂点であろう。ちなみに、この時マッチアップした選手はレバークーゼンの右SB、ゾルタン・セベスチェン。
そもそもゴールはゴールで、そこに最高も最低もない。しかし、グラスゴーのゴラッソが「史上最高」と表現されるのは、もちろんその美しさもさることながら、これが塩試合だったということも見逃せない。確かにCL決勝はスぺクタクルな以下のトーナメントに比べて退屈であることが非常に多い。眠気をこすること前提で観戦するファンも多いはず。その中でもこの試合は退屈だった。デルボスケのマドリーは創造性もなく、意外性もない。特定の選手以外ではパス交換もしない。マケレレがひとりで頑張ってなんとなくクオリティで勝ってしまう。そもそも強いときのマドリーはだいたいそんな感じなんだけど。
サッカーが世界中の人々にもたらした幸福の瞬間。
だが、この年は世界的に陰鬱な空気が広がっていた。CL開幕戦の9.11は、あの世界同時多発テロでツインタワーが崩れ去った時である。そんな世相を背景に、スペクタクルなサッカーを披露しろというのが無理な話なのかもしれない。その影響で実際に開幕の8試合は延期されているのだ。ジダンのゴールは、そんな世相に光をもたらす、大いなる稲妻のようなゴールでもあった。そのゴールは、世界中の人々へとまさに希望をもたらしたのである。
ジダンのベストマッチはと問われれば確実にこの試合ではないだろう(おそらくW杯のどれかのはずだ)。しかし、ベストゴールは何かと問われれば答えは確実にこれ。バラックだけのダークホースと目されながら、ルッシオやベルバトフなどのちに世界最高峰とされる選手を擁したレヴァークーゼンの夢を打ち砕いたこのゴールは、ただの1ゴールではなく、世界中に笑みをもたらしたという点で他に類を見ない一撃なのである。