ガゼッタ・デロ・スポルトが与えた唯一の10点満点。
たった一人の存在がゲームを支配してしまう。サッカーには稀にそんな試合が生まれることがある。それがこのパルマ×インテル戦。
ガラスの天才。終わった選手。
ロベルト・バッジョがデビューしたのが15歳の時で、この年はプロ入り18年目ということになる。当時のバッジョは33歳。
おそらくキャリア・ハイだったロナウドとの「夢の」コンビは互いのけがでほとんど実現せず、厳格なリッピはバッジョをベンチへ追いやった。
「自分が思い描いた一番難しいプレーを選択する」。彼が本心からそういったかは定かではないが、走れない、守れない、そしてケガがちではポジションをつかみ取れるはずはない。
2本のマジカルシュート、そして圧倒的存在感。
バッジョに見とれているうちに試合が終わった。そんな試合だった。
特にペナルティエリアの右横からゴール右隅に決めたゴールは今見ても意味不明。
どこにコースがあるのか……? 右足のインサイドでちょっと押し出すように蹴られたボールが、不思議な軌道を描いてゴールに吸い込まれる。
無回転でもない、純粋な縦回転。それをクロスバー直下の「ポケット」に入れるという発想。
そのゴールにしびれているうちに時は進む。パルマが1点を返した。
しかしそんなことはどうでもいい。バッジョ、バッジョ!
彼にボールが渡りさえすれば試合は動くぞ、いいからバッジョにパスを出せ! そして観客の願いをバッジョはプレーでことごとくかなえてしまう。
2点目は「福音」という言葉を使うのがまさに適当なのだろう。ハーフバウンドのこぼれ球を利き足とは逆の左でダイレクトボレー。
軽く振ったはずのボールが魅入られたような速度でゴール左端へ吸い込まれていく。
バッジョならではの「ボールの芯の芯」を貫いたが故の弾道。
興奮冷めやらぬままバッジョはピッチを後にする。サモラノが決めた3点目はもはや余興だった。
試合後、彼の元に数々の選手が最後の抱擁を求め駆け寄ってきた――。僕たちもそばにいさせてくれ。そんな雰囲気だ。
「神々しい」とされる雰囲気を持った選手はスーパースターよりもさらに少ない。
おそらくマラドーナはそうで、ペレもきっとそうだったのだろう。
ワールドカップのジダンもそうだったかもしれない。
そしてバッジョはまさにそういう選手だった。
この試合は、そんな神性を帯びた、見る者に異質の興奮を与える、といった点ではナンバーワンかもしれない。
一番走らない選手が一番かっこいい、そんな風潮さえあったのは、彼の神性が及ぼした結果もあると思う。
子供がファンタジスタにあこがれることを誰も止められない。
バッジョはサッカーそのものの価値観を決定づけていた選手ともいえる。
結局のところ、ファンタジスタという言葉はバッジョのためにあったのではないかとさえ思える。
「ネクスト・バッジョ」とは若きピルロの二つ名だったが、結局バッジョを継ぐ者はいまだ現れていない。
DFはただ守り、FWはただ点を取る。そんな分業制の時代が終わった一戦ともいえそうな気がする。