ジョホールバルの歓喜、カズ落選などのドラマを経て挑んだフランスワールドカップ本戦。グループHに入った日本はアルゼンチン、クロアチアに手堅い試合運びされた結果どちらも0-1と沈没。早くも決勝トーナメント進出の夢は潰えていた。
しかし、ワールドカップの夢は潰えていない。「せめて一勝」と期待をもってサポーターは熱いまなざしを送る。相手は1勝1敗1分けという標語のうち「1勝」をもくろんでいたジャマイカ。
中盤からサイドから攻めまくる日本。だけどシュートは枠の外。
試合は日本代表が押し気味に進める。ディフェンスがまったく整理されていない(というよりディフェンスを放棄したようにも見える)ジャマイカに対して3-5-2のフォーメーションを軸に名波、中田、山口が相手をブンブン振り回す。しかし、次々と決定的なチャンスを作り出すもシュートは枠外にそれまくり……「城またも上」。
解説の一言がサポーターたちの言葉を代弁する。さらにファウルスローなど今見ると信じられないようなミスも出て、空気がよどみ始めた前半39分。敵陣からのなんでもないフリーキックがゴール前にこぼれてウイットモアに押し込まれる。
後半、日本のシュートからのカウンターで完全に裏を突かれた日本はウィットモアに川口がニアをぶち抜かれて2失点目を喫する。この活躍が認められたウィットモアはのちにハル・シティで活躍。さらにジャマイカ代表監督となっている――。
なぜ入らない……。中盤は相変わらず無双してるのに……。
このまま一点も奪えずにワールドカップを去るのか、とサポーターは心を塞ぐ。どれだけ撃っても入らない。内容だけを見れば、3、4点……いや5点入っていてもおかしくない展開。しかしなぜか時間だけが数字を増していく。
だが後半29分、中山雅史が日本に希望をもたらす。中盤からの相馬のクロスに呂比須が折り返し、中山が「らしい」不格好なボレー!
やっとこさ、やってのけてくれた……。このゴールが無かったら、日本人は4年後まで心を閉ざしたままだったかもしれない。どんなに外したとしても、1点は1点だ――。
中山ゴ-ル!! そして小野伸二のショータイム。
そして、小野伸二が登場。ワンプレーでスコーンと効果音付きの股抜きからのシュート! 大歓声のスタジアム。この時小野は18歳。やがて彼は中田とともに世界的な選手へと成長する。
今試合を振り返ると、とにかく日本の選手が「仕掛けられない」ことに驚く。それは4年後ですらトルコ戦後に中田がそう伝えたが、目指したパスサッカーの弊害で戦えない文化が根付いてしまった。「小野をFWで育てられなかったことが日本サッカーの過ちだ」と識者は言う。決定力不足と声高に叫ばれた時代だった。しかし個の力の重要性に気付くのは、香川や内田がドイツで活躍したあたり……それは10年以上ということになる。
しかし、特に中山の1点が無ければ、次のワールドカップは「勝利」でなく「得点」を目指す戦いになっていただろう。この試合をきっかけとして日本は「ワールドカップ常連国」としての一歩を踏み出していく――。
(新井一二三)
・サッカーの歴史を変えたベスト30試合。
第30位
1998年6月26日 FIFAワールドカップフランス大会
グループステージ第3戦 日本×ジャマイカ戦
日本1-2(0-1)ジャマイカ
得点
39分セオドア・ウィットモア
54分セオドア・ウィットモア(2)
74分中山雅史