こんにちは、新井一二三です。
今回は2016年3月公開、監督、脚本がガース・ジェニングス、声の出演:マシュー・マコノヒー、スカーレット・ヨハンソン(内村光良、長澤まさみ)、のCGアニメ・ミュージカル映画、「SING/シング」を採点します。
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ぱっと見「ピクサー」の作品かと思いきや……?
怪盗グルー(ミニオンズ)シリーズを手掛けるイルミネーション・エンタテインメントが制作したアニメミュージカル映画「SING/シング」。
嫌味なネズミの劇場支配人、バスターが間違いだらけのミュージック・ショーを企画した結果マイノリティたちが大暴れ。最後はメディアやセレブにも認められ、アメリカン・ドリームを掴むというのがだいたいのスジ書き。
主人公バスターの建付けである「最初は嫌な奴が、苦難を乗り越え、いい奴になって成功する」というスジがあまりにも酷似しているため、ぱっと見オピクサーと見間違えてしまった。でもこれは吹き替え版のお話。
この映画の面白いところは、主人公のバスターが字幕版では「夢に燃える青年実業家」、苦難に負けないネバー・ギブアップ・ガイに見えるところ。当初は吹き替え版の仕事ぶりが素晴らしく、脚本の不出来を残念に思ったのだが、字幕版を視聴してその考えが180度変わる。つまり、字幕版では主人公バスターに感情移入できるということです。
原版の味付けと日本語版の味付けはなかなか違う。
僕は通り一遍等に邦画吹き替えに芸人を使ったり、アイドルを使ったり、あの手この手のプロモ―ションで映画を成功に導く手法を間違いたと喧伝するつもりはない。
実際この作品の吹き替えはすばらしいものだ。日本語版の興行収入51億円はその表れでもあるだろう。特にゴリラのジョニー、スキマスイッチ大橋卓弥の仕事はスキマスイッチ=サッカーという僕の認識を覆してくれる素晴らしいものだった。(ちなみにサッカー好きは常田(アフロ)のほうらしい)。
しかし、どうにも腑に落ちない部分は残る。字幕版には、吹き替え版にない「マイノリティの社会性」をも細かいセンテンスから巧み描き出し、丁寧にキャラクターたちの性格付けをこなしている。
たとえば、ヤな奴筆頭、ネズミのマイクのキャラ付けは発音の対比でもされているし、そのこだわりは前編を通して感じられるような気がする。だけど吹き替え版にはそれがない。
シング-オリジナル・サウンドトラック サウンドトラック
サントラ (アーティスト), 長澤まさみ (アーティスト), 大橋卓弥 (アーティスト), 山寺宏一 (アーティスト)
字幕版を見れば、はりねずみのランス(彼氏のほう)のダメさ加減もよくわかるはずだ。お茶目で歌が好きすぎる根幹のもてるアッシュが邦画版ではともすると「彼氏を捨てて音楽だけを選んだ」ようにも映ってしまう。
(そもそもアッシュはコーラス担当、だって吹き替え版では言ってないよね……? なんで「ランスはリードボーカル」という表現にしたんだろう?)
それはさておいても邦画版の最大の問題、バスターが「夢見るおらが町のミュージシャンをぶった切りしてしまう」というところが字幕版では(もう原版でいいか)ではミュージシャン各自の力量を細かく描き出すことで、しっかりと理由付けしている。
監督はもともとMVクリエイター。
このあたりは監督、脚本のガース・ジェニングスは名うてのミュージック・ビデオ・クリエイターだったことがいい仕事の理由だろう。これからはミュージカル映画の吹き替え指導には紀里谷和明(CASSHERN/キャシャーンの監督の人)を起用してはどうだろうか。
とはいえ、翻訳の桜井裕子は偉大な仕事をこなしたと思う。何かとは言わないが、ほかの作品と比べればその出来栄えは明らかだ。
ただ、吹き替え版しか鑑賞されていない方は、ぜひ原版もお試しあれ――
原版には日本語版にはない深みや感動がある。「ミュージカル映画の脚本は駄作」を覆した良作。81点。
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ちなみに2020年5月現在では「amazonプライム」で視聴できる模様です。興味のある方はこちらから視聴をぜひどうぞ。無料期間の視聴がおすすめです。
(あとMCUクラスタにはあのブラック・ウィドウがガーリーボーカルをしている、と思うとちょっと「ふふっ」ってなります。ちなみに続編は2020年から2021年に公開をちなみに延期したそうです。)